大好きな笑顔を支える税

 「ひいおじいちゃんが、手術することになったんだよ。」

塾から帰る道、母からそう聞かされた私は、返す言葉を見つけることが出来ませんでした。脳裏には、曽祖父のあの優しい笑顔がはっきりと浮かんでいました。

 私の曽祖父は、卒寿を迎えてからも元気で、頼れる人です。私は幼い頃から、曽祖父と会って話すのが嬉しく、その時に曽祖父が見せる笑顔が大好きでした。けれど、中学に入ってからは忙しくなり、曽祖父のもとを訪ねることが減ってしまいました。遊びにおいでと言われても、断ってばかりいました。今思えば、もっと会いに行けたはずです。私は自分に腹が立ちました。

 曽祖父は、腎臓の機能が低下してしまったそうです。そのため、人工透析による治療をすることになり、その治療を始めるための手術が必要なのだと言います。

 その後、手術は無事終わりました。ですが、人工透析の治療は、週に何度も行われるそうです。そんな治療を曽祖父は、これから一生続けていかなければなりません。一生。曽祖父の苦しみは、私には到底計り知れません。

 ある時私は、不安に思いました。曽祖父の手術や治療には、多くの費用がかかっているのではないかと。もちろん、曽祖父が元気でいてくれるのなら、どんなにお金がかかっても構わないと思いますし、曽祖父のことが最優先です。それでも、周りの大人たちは表には出さなくても、大きな負担を背負っているのではないかと思ったのです。こんなことを訊かれても答えづらいのでは、と気が引けたのですが、思い切って両親に尋ねてみました。すると両親は、ためらった様子もなく、答えてくれました。手術や治療にかかる費用のほとんどが、市や県、国の健康保険の保険料によって賄われているのだそうです。その保険料は、私たちが生活の中で納めている税金で成り立っているものであるということも知りました。様々な所で、沢山の人々によって納められた税金が、こんな風に曽祖父や私たち家族の大きな支えとなっていることに、温かい気持ちになりました。

 曽祖父は、長年乗っていた愛車を手放しました。今では、娘である祖母が大切に乗っています。孫である母は、こまめに曽祖父の様子を見に行っています。他にも、多くの親戚が曽祖父のために出来ることをしています。

 ならば私は?曽孫である私には、何が出来るのでしょう。まず、忙しいことを言い訳にせず、曽祖父と会って話す時間を増やしたいと思います。それだけではなく、納税の義務を果たしていきたいと思います。ただ義務感だけで納めるのではありません。納税の先にある、誰かの笑顔のために、未来のために、税を納められる人になりたいと心から思います。そう、私が、大好きな笑顔を支えてもらったように。