バトン

 それは私が中学一年生の時だった。体力をもっとつけようと、家の周りを走っていたとき、突然腹痛に襲われた。家に戻ったときには、すでに立ち上がることすらできなくなっており、すぐに近くの病院を受診した。やがて、病院の先生が呼んでくれた救急車に乗り広いグラウンドまで運ばれると、ドクターへりに乗せられ大きな病院へと運ばれた。

 一日入院し、ほぼ普通の状態に戻っていた私はある疑問を抱いた。

「ドクターヘリや救急車に乗ったけど、いくらお金がかかったのだろう。」と。救急車の中では酸素マスクをつけ、一定時間ごとに血圧をはかったり、心臓の働きを調べたりした。ドクターヘリの中ではさらに、点滴もしてもらった。普通の病院ならともかく、動いている車内やへりの中ではかなりお金がかかったはずだ。そう思い、母にたずねると、

「どちらも無料だよ。」と驚きの答えが返ってきた。調べてみると、それらは全て税金でまかなわれているという。このことを知った私は、今までと税に対する考え方が全く違うものになった。

 普段、買い物をする時、消費税が高いと思ったことは何度もある。税率が五パーセントから八パーセントになるのも嫌だな、と思った。でも、こうして私が税金の恩恵を受けたのと同じように、自分たちが支払った税金が会ったこともない誰かを救えるかもしれない。そう思うと、自然に税金を嫌だと思う気持ちは抱かなくなった。

 私はよく救急車を利用する。それに命を救われたこともある。だからこそ思うのだ。税金は命を救うためのバトンであると。誰かが納めた税金が病気の人を救ってくれる。すると今度は、その救われた人が納めた税金が別の人を救うために使われる。こうして人から人へとバトンはつなげられていくのだ。

 私もあと数年で、自分のお金で税金を納める立場になる。その時は自分がバドンをつなげる一員だ。今まで助けてもらった恩返しとして、今度は私が、誰かを助けたい。